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死神の裁定(中)
「なに、そんなこと。もう、サンタクロースも信じてないくらいだもの。同年代の子より大人なのよ」
エナは笑い、ベッドに近づいて、『メリークリスマス』とささやきかけた。
母も、『メリークリスマス』と返した。
去年までは、ささやかながらいつもより豪華な食事、それに、エナの大好物のケーキがテーブルに並んでいた。だが、今は大きすぎるテーブルは折りたたまれて壁に立てかけられたままだ。
ただ、早く時間が過ぎて欲しくて、エナは毛布をかぶり、暖炉の前で丸くなった。
燭台の灯が消えてしばらくして、うとうとしていた彼女は、妙な音を聞いた。死神のことを思い出し、思わず跳び起きる。窓の外、闇のなかに、白い人影が見えた。
恐怖が一気に募ってくる。それでも、彼女は上着を肩にかけて、ドアの外に出て行く。いくら貧しくても、街にとって役立たずでも、一家二人ともが殺されることはないだろう。話せば、わかってくれるかもしれない。母だけは、見逃して欲しい。
そう思って、恐れながらも外に出た。深夜らしく、通りに通行人はいなかった。いるのは彼女と、死神だ。
死神の姿に、エナは驚いた。
死神は、神父の服を着ていた。それに、まだ若い。エナとそれほど歳が離れていないだろう、少年だった。
「あなた……誰?」
エナが尋ねると、相手は苦笑した。
「死神です。あなたたちに用があります」
あの噂は、本当だったんだ――!
エナは、凍りついたように立ち尽くす。この街にも、いくつか教会はある。仕事と看病で忙しくて、彼女は一年ほど、神に祈りをささげることもできなかった。そんな者は、聖職者にとって必要ない人間かもしれない。
「これが、ぼくたちの仕事ですから。ときに神の裁定を代行するのが」
容赦なく言って、少年が近づいて来る。エナは膝をついて、祈るように手を組み合わせた。雪が剥き出しの膝に冷たかったが、そんなことを気にする余裕もない。
「お願いです! 母だけは、見逃してください! 母は信心深い人で、動けない身体になる前は毎日のように教会に通っていました。だから、母だけは……!」
「でも、あなたのお母様は、一人では食事も取れない状態なのでしょう?」
不思議そうに問う相手に、エナは戸惑ったように答える。
「それは……わたしの職場の人にお願いしてみます。だから、それまで待ってください、お願い……」
懇願するように少年を見上げる。