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死神の裁定(下)
期待と不安の視線を受け止めながら、相手は首を振った
「いいえ。今日中に消さなくてはいけない。それが、死神の役目です」
彼は言って、強い意志を感じさせる目で少女を見下ろした。
「さあ、家のなかに戻りなさい。眠っている間に、すべて終わっていますよ。何も怖がることはない……」
そのことばに催眠術をかけられたかのように、エナは虚ろな目で立ち上がり、よろよろと家に戻っていた。
このまま眠るように死ねるなら、それでいいのかもしれない。もう、苦しい思いもしなくてすむ。そのほうが、楽かもしれない。
そう思いながら、彼女は暖炉の前で眠りについた。
朝、エナはまず、目がさめたことを不思議に思う。
クリスマスの朝は、晴れ渡っていた。暖炉の火は消えかかっていたが、それほど寒くない。
毛布をたたんで立ち上がりかけたエナは、クリスマスツリーの下に、小さな箱を見つける。
手にとって見ると、それはずっしりとして重かった。開けてみると、なかには何枚もの金貨と、カードが入っている。
カードには、こう書かれている。
『メリークリスマス。神に代わって、慈悲の手を。
これで、貧しい者は街から消されたでしょう?』
金貨は、薬を買っても、医者を呼んでも、クリスマスを祝っても、たくさん余るほどあった。
茫然としていたエナは、やがて、涙を流しながらカードを握り締めた。
半年後。一組の母娘が、家を出て行くところだった。
「お母さん、お買い物の帰り、教会に寄りましょうよ。感謝の祈りを捧げなくちゃ」
娘に言われて、ドアに鍵をかけていた母親が笑う。
「またいつもの教会ね、わかったわ、行きましょう」
「じゃ、早く行きましょう」
明るい笑顔で答えて、少女は軽い足取りで歩き出す。
「まったく、すっかり信心深くなっちゃって」
「今、幸せでいられるのは、神様のおかげだもの」
「死神というサンタクロースの、でしょう?」
再び笑って、母も娘を追いかける。
この街には、奇妙な噂があった。
毎年クリスマスの喜びの裏で、一種の恐怖とともに噂されるのが、死神のことだった。クリスマスの前に、この街に必要ない、不幸で貧しい人間を消してしまうのだという。
毎年クリスマスイヴに増加していた自殺者の数は、年々減少しているという。