NO.02 リアルバトル・モニター

 自身が設計した新開発ドライヴのお披露目とあって、カート・アスラード博士は上機嫌だった。技術スタッフが準備を進めていくのを、今までの苦労を思い返しているのか、どこか遠い目で眺める。同じく、キイも作業を眺めていた。だが、その表情はどこか眠たげにも見える。少なくとも、目の前で行われていることに感心があるようには見えない。それに気づいてか、アスラードは一見画家志望の美少年風の姿に声をかけた。
「頼むぞ、キイ。この粒子加減速ドライヴの完成がかかってるんだ。完成すれば、フォートレットまで2日で行けるはず」
 自信と期待の目を向ける若い博士に、キイは漆黒の瞳に疑問の光をたたえて応じる。
「それって速いんですか? ハイパーAドライヴなら2分足らずだけど」
「ま、まあ、ASにはかなわないが、いつもASを使うわけにもいかないだろう。粒子加減速ドライヴなら、エネルギーも消費しない。ノーコスト・ハイパワーだよ」
 AS――アストラルシステムは、量子力学的情報を操作するシステムである。その力は強力だが、代償は大きく、多用はできない。
 間もなく、技術主任のマリオンが作業の完了を告げた。それと同時にキイは腰かけていた柵から降り、ゼクロス機内に入る。本日のメインイベントはこれから始まるのだ。
 監視システムをチェックしているエイシアとゼクロスが異常なしを告げる。ブリッジで席に着いたキイは、サブモニターで、スタッフ全員が期待の視線で見上げているのを見る。
「こりゃ、失敗できないなあ……
 不可視の壁がゲートを包み、出口が開く。
「良い旅を」
 アスラードが手を上げると同時に、キイは発進の指示を下した。ゼクロスはいつもと違って補助ドライヴを使い、〈リグニオン〉から出た。そこで機体の向きを変えると、新たに搭載したばかりのメインドライヴを機動する。
 シュッ、と小さな音を残して、その姿が〈リグニオン〉のモニター上から消えた。
「もう見えなくなったぜ……こりゃ凄い」
 巨大モニターを見上げたマリオンが、あんぐりと口を開けて言った。
 一方のキイとゼクロスも、新メインドライヴの速さを実感していた。あっと言う間に大気圏を抜け、輸送船とすれ違い、順調に航行を続ける。
『やっと、私の処理速度に見合うだけのメインドライヴができましたね。それにしても、ようやく解放された気分です。今も監視されていますが』
「カゴの中の鳥かい?」
『まったくです。このまま逃げてしまいたい』
 テスト・ルートは決まっていた。このままとなりの星系を抜け、惑星エルソンの周囲を一周して戻ってくるというのがそれだ。エルソンを選んだところが博士たちのゼクロスに対するせめてもの配慮だろう。
 サブモニターのひとつで孤を描いているルートを一瞥してから、キイはメインモニターに視線を戻す。
 メインモニターには流れる星の筋が見えるでもなく、Gがかかることもないので、宇宙空間に出てしまうと体感としては停止しているのとほとんど変わりなかった。今度からはサブモニターの座標でも眺めていたほうがヒマ潰しになるかもしれない、と思いながら、彼女は本でも読もうと、席を立って棚をゴソゴソやり始める。
『キイ、救難信号をキャッチしました』
 突然のことばだった。キイは顔を上げ、一瞬怪訝そうな表情を浮かべる。
 だが、すぐに席に戻った。
「近いか? 場所は?」
『すぐ近くです。移動している小惑星の裏です。小型宇宙船が何機か周囲を航行していますが……
「メインドライヴ停止。とにかく見てみようじゃないか」
 ゼクロスは、センサーで捉えた目標物のポイントをサブモニターに表示していた。そのポイントのいくつか、一部見え隠れしているが5つ、6つは移動していた。それが宇宙船なのだろうが、その動きに、ゼクロスは疑問を抱いたらしい。キイも同様だ。まるで、宇宙船は小惑星の様子を眺めているようではないか。
『メインドライヴ停止。慣性航行中』
 ブラックアウトしたようだったモニターの映像が切り替わり、どこか不安定に動いていく小惑星を映した。すぐに追いつき、その横に並ぶ。
 半径数キロメートルほどの小惑星の上には、小さなシャトルが半ばめり込むようにして着地していた。安定翼が破損し、無残な姿をさらしている。
『呼びかけても応答がありません。着陸しますか?』
「ああ、回りの連中が気になるが……
 小惑星の向こうに、灰色の機体が見え隠れする。
 その姿を注視したキイは、目を疑った。不意に白い光線がシャトルめがけて放たれたのだ。
「戦艦か!」
『何が起きているのかわかりませんが、盾になりましょう』
 久々にバリアとCSリングを展開する。〈リグニオン〉の技術スタッフの整備は抜かりない。
 ゼクロスは、小惑星の周囲に存在する戦艦の正確な数を7機と算出した。姿を見せ、攻撃しているのは今のところ1機だけだが。
 盾になりながら、ゼクロスは降下した。白い光が不可視の結界に阻まれ、その表面で火花を散らす。
 宇宙服を着込んだキイは下部ハッチから地上に降り、ゼクロスはすぐに上昇。ただ、決してシャトルの上から離れようとはしない。
 キイはシャトルのハッチを叩いた。人がいるといたら、機内だ。
 しばらく、待ってみる。シャトルは何度か攻撃を受けたらしく、翼に穴が空いていた。だが、幸いなかにそれほど被害はないだろう、と、彼女は判断する。
 やがて、ハッチがなかから開かれた。白い宇宙服姿が手招きしているのが見える。
 このまま外に出てゼクロスに拾ってもらったほうが早いのではないか、と思ったが、戦艦に狙われていることからしても、何か事情があるのかもしれない。誘いに従い、機内に入る。
 ハッチが閉められるなり、機内の空気を調整するシューという音が鳴った。十秒後、宇宙服の人間がうなずき、ヘルメットを取って見せる。
 現われたのは、黒目黒髪の美青年だった。このシャトルには、彼だけらしい。
「救助に来てくださったのですね。ありがとう」
「どういたしまして」
 やはり環境システムは無事なようだと見て、キイもまたヘルメットを取った。深呼吸をして、問題なく呼吸ができることを確かめる。
「あなたは?」
 簡潔に問う。相手は、ほほ笑みを浮かべて応じた。
「私のことは、ナシェルと呼んでください。これでも、科学者の端くれをやっています」
 言いながら、彼は奥に向かう。キイもそれを追った。すぐそこが、シャトルのブリッジだ。
 そこには、シャトルに付属でないモニターや、何かの機器が持ち込まれていた。彼の仕事道具だろうか。
「実は、無人航行の戦艦の実験をしていました」
「では、あれはあなたが?」
 目を丸くするキイに、ナシェルは自嘲めいた苦笑を浮かべてうなずいた。
「ええ。それが、こうして故障のために失敗してしまいまして……。現在防衛モードにしているので被害は最小限に留めていますが、あれを破壊するには防衛モードを解除しなければなりません」
「するとどうなります?」
「戦闘モードとなって、本格的に攻撃してくるでしょう。しかし防衛モードのままでは強力なバリアを張っていますし、万一破壊されると自爆しますから危険です」
 ここからエルソンまでは、もうあまり離れていない。自爆した戦艦の残骸が惑星上に降り注ぐことになりかねない。
 それにしても――と、キイはナシェルを見た。こんな危険な実験に1人だけで挑むとは。それに、強力な兵器を積んだ戦艦の実験となると、やはり、大っぴらにはできない事情があるのだろう。軍備拡張を望むどこかの政府や団体に頼まれ、内密に開発・実験していた、ということだろうか。
 しかし、自分たちには関係のない話だ。それがいずれ自分の邪魔をするなら、そのときに対処すればいい……キイは、ナシェルの事情を追求しないことにした。
「では、戦闘モードに切り替えましょう。攻撃目標も変えられますか?」
「ええ……
 不安げに応じるナシェルをよそに、キイはシャトルの上空のゼクロスに声をかける。
「聞いたか、ゼクロス」
『はい。攻撃目標を私に変更してください。チャンネルを教えていただければ必要なデータはお送りします。しかし、大切な実験対象を破壊してしまって大丈夫でしょうか?』
「しょせん失敗作だ」
 ナシェルが苦笑混じりに口をはさんだ。
「新しい開発費は、雇い主から出るさ」
 彼はゼクロスにシャトルのチャンネルを教え、攻撃目標の変更に必要なデータを受け取った。それを、7機の戦艦に転送する。構造上、シャトルのシステムを通して中枢をのっとるのは不可能だった。物理的に破壊する他ない。
 ゼクロスとのチャンネルが開き、シャトルのモニターに上空が映し出される。攻撃目標の変更を確認し、白と紺の機体は小惑星を離れた。
「7機も追っていったようですね」
 レーザーの光を数え、ナシェルはどこか不安げに言った。しかし、一方のキイは平然としている。
「心配じゃないんですか?」
……心配する要素はない。心置きなく破壊できる対象が7機、というだけでしょう」
 戦艦に人が乗っているか、人工知能が搭載されていれば話は違っただろう。だが、代わりにいくら強力な兵器が搭載されていたとしても、キイは何の不安も抱かない。彼女には今、ゼクロスが何を思っているかわかる。これをどう料理しようか、だ。
 そう考え、しばらくぶりに自由に宇宙空間を飛びまわれることと整備された兵器を試すことができるのを喜びながらも、ゼクロスは決して油断はしていなかった。相手に関する情報を充分に与えられてはいない。未知の兵器を搭載しているに違いない。
『とりあえず、ドライヴの技術に関しては〈リグニオン〉が最先端のようですね』
 戦艦が見失わないよう、つかず離れずの距離を保ちながら、彼はやがて、小惑星からもエルソンからもある程度離れたところで停止する。
 戦艦は周囲を取り囲むように展開。高周波ビットをバラ撒きながら兵器を準備。
 それが終わらないうちに、敵戦力をスキャンする。高周波ビットに搭載されたコンピュータの種類によっては操れるだろうが、無理と判断し、放棄。CSリングでいくつかを潰しながら、戦艦の1機に突進した。接触寸前、敵の砲門がわずかに輝いた。
 ゼクロスは素早くかわし、自機の横の空間が超高温になっているのを感知する。
『油断はできませんね』
 しかし、どの戦艦もその機動力にはかなわない。当たらなければ意味がないのだ。
 CSリングは、歪んだ空間の波だ。それを、ゼクロスは自らを追って直線状に並ぶ3機の戦艦に投げつけた。リング・ショット。戦艦たちは火花を散らしながら、輝く輪に無残に一刀両断される。リングは戦艦の向こうに突き抜けるとふっと消えた。
 それにはかまわず、レーザーで牽制しながら、残り4機の料理にかかる。相手のバリアも強力で、通常の攻撃はほとんど効果をあげていない。だが、ASは使わずに終らせたかった。それにCSリングは1度消滅すると再展開に時間がかかるため、知恵を使って料理する必要がある。
 3機の戦艦の残骸の周囲を巡りながら、ゼクロスは機体を横に回転させ、敵戦艦の攻撃をよけていた。真っ2つの戦艦の機関を解析し、その動力部を攻撃。
 爆発に巻き込まれ、1機が停止した。
『退屈な作業です』
 言いながら、さらにタイミングと角度を計算して残骸を攻撃し、戦艦を爆発に巻き込む。敵艦のレーザーが機体をかすめるのも気にせず、ギリギリで爆発をかわす。当然、安全な、計算しつくされた動きではあったが。
 最後の1機が、誘導のためにスピードを落とすゼクロスに重力波を放った。道連れにするつもりらしいと気づき、ゼクロスは一瞬、考える。最良のタイミングで爆発を引き起こすにはここを離れるわけには行かない。だが、もちろんこのまま相手に接近するわけにもいかないだろう。メインドライヴの機動力なら充分引き離せるし、重力波を反転させて対抗することもできるが、それでは相手が誘導から離れる可能性がある。
 彼は、すぐに決断した。重力波を使い、戦艦の残骸を引き寄せる。
 タイミングを見計らい、攻撃と同時に一気にメインドライヴを全開にし、離脱。爆発の衝撃が機体を弾き、宙に放り出す。
『意外に地味な戦いでしたね』
『被害は?』
『ありません。そちらに戻ります』
 キイからの通信に答え、体勢を立て直した小型宇宙船は、小惑星に針路を取る。
 戦いの間、ナシェルはじっとモニターに見入っていた。最低限の消費に抑えた戦い方だ、と青年は思う。『遊撃戦艦バトルフェイザー』の時とは、まったく逆の戦い方。
 間もなく、ゼクロスはシャトルの上空に姿を現わす。
「あとはここを脱出するだけですね」
 ナシェルは荷物をまとめ、すでに準備を整えていた。シャトル自体はあとで回収すればよいので、最低限のものだけを抱えている。
 しかし、ゼクロスはそれを否定した。
『キイ、ナシェルさん……大変です。この小惑星はシグナ・ステーションへの衝突コースを進んでいます。接触まであと49分余りです』
 実験のためにコースが変化したのかもしれない。予想外のことに、ナシェルは愕然として、しばらくことばも出なかった。だが、ふと目をやると、キイ・マスターは相変わらず無表情に近かった。まるで、すべて予想通りという様子に見える。
「そうか。すでに察知しているだろうが、シグナに通報。シャトルごと回収できるかい?」
『はい。代わりに探査艇を2機、外に出しますが。ドローワープ回収』
 ゼクロス機内の狭いゲートに、探査艇と入れ替わりにシャトルを回収する。ドローワープも新たに追加されたシステムだ。回収されたほうは特に異変を感じない。
 ナシェルとともにブリッジに向かったキイを、ゼクロスはシグナとのチャンネルを開いて待っていた。
「対策は? ステーションに兵器があるわけはないし、バリアの機能かな」
『隕石のためにステーションが破壊されるようなことはありえないだろうけど、ステーションのバリアには隕石を弾き飛ばすことはできない。展開範囲が一定していてね』
 通信システムを通し、シグナ・ステーションの中枢システムがことばを返す。
『エルソン本土の防衛システムの援助を受けられるはずが、今故障中で、その関係でルータもいない。このままでは、バリアを展開しても押し付けられ、エルソンの重力に捉われる公算が高い』
 1番手っ取り早い方法は小惑星の進路を変えることだが、それだけの出力を出せるかどうかが問題だった。エルソンに落下させるわけにも行かないが、すでに巨大な惑星エルソンに引かれている。その重力に逆らって巨大な隕石を動かすにはかなりの出力が必要だ。
『もし他にどうしようもなくなれば、私も力を使う他ないと思う』
 力とは、もちろんASのことだ。しかし、シグナが使うくらいならゼクロスが使ったほうがいい、とキイもゼクロスも主張した。もし使えば、〈リグニオン〉に監禁状態がさらに長引くことは間違いないが、シグナがASを使用すれば被害はそれだけではすまない。ステーションの管理機能は一週間以上麻痺するだろう。
「小惑星に着陸してドライヴ全開は?」
『リミッタ以上の力を出せば機体がもちません。同じメインドライヴを積んだ船がもう一機あれば、安全圏でも充分な出力を得られたかもしれませんが。リングとバリアを使って体当たりするにしても、やはり出力不足です。何度か連続して体当たりをかけられれば良いのですが、一撃のあとにすぐに重力で針路を修正されてしまうでしょう』
「ステーションは動かせないのか?」
 じっと考え込んでいたナシェルが不意に問うた。シグナは緊張した声で答える。
『できないことはないが、今から準備していたのでは……。ゲート寄航中の船に協力してもらえれば加速できたはずだが、今ゲート・インしているのは13機だけで……
『接触まで22分』
 ゼクロスは通信可能圏の宇宙船に協力を求めていたが、どの船も間に合いそうになかった。エルソン本土にも当然事態は伝わっているが、今のところ指示はない。本土でも対策に苦慮しているのだろう。
『キイ、ひとつ提案があります。犠牲は大きいですが……
……ああ、なんだい」
『小惑星を動かす方法についてです。新開発のメインドライヴですが、直接小惑星に設置できれば充分な出力を得られると考えられます』
 ドローワープで、小惑星の表面の破片と入れ替わりにでも転送すればいい。そうして、ゼクロスが粒子加減速ドライヴを操作するのだ。小惑星上なら、リミッタ以上の出力を出そうが関係はない。エネルギーは消費しない……。十秒で機能停止するだろうが、小惑星を動かすには充分だ。
「よし、やろう」
 〈リグニオン〉で楽しみに待っているであろうカート・アスラード博士らの顔が目に浮かぶ。
 心の中でその姿に手を合わせながら、キイは決断した。

「あなたの勇気ある決断には感動しました。是非、近いうちにお礼にうかがいます」
 シグナ・ステーションのゲートにて、ナシェルはそう別れを告げた。彼はとりあえず、ここで雇い主からの迎えを待つことになるだろう。
『キイ、ゼクロス、本当にありがとう。もちろん被害は全額エルソンから出るよ。それに、もちろん最高のお礼も用意されると思う』
 ナシェルに続き、シグナが礼を言う。エルソン政府にとっては、キイとゼクロスはほとんど英雄と言っていい。最高の栄誉が与えられるだろう。
 しかし、キイもゼクロスも、それを素直に喜ぶ気にはなれなかった。補助ドライヴだけでオリヴンに戻るには相当の時間がかかるため、すぐにシグナ・ステーションを出る。珍しくシグナが名残惜しそうな様子を見せるほど素っ気なく14番ゲートを出た。
 とりあえず、針路はオリヴンへ。
 しかし、ゲートを出て間もなく、ブリッジでうなだれて何かを考えていたキイが顔を上げる。その表情は、何かを捨てたかのように清々しかった。
「ゼクロス……一緒に地の果てまで逃げないか?」
 愛の逃避行という調子に、一瞬黙り込んだものの、ゼクロスは同意の声を上げた。
『地の果てにはもう来ている気がしますが……いいですね。いざ、新天地へ!』
 妙に楽しげに言い、ゼクロス、針路をオリヴンとは逆方向に変更。
 だが、不意にメインモニター上を見覚えのある宇宙船の姿が占めた。すでにその機体からはギャラクシーポリスの紋章が削られた、小型の戦艦。
『どこへ行くつもりだ、2人とも』
 完全に面食らったゼクロスは急停止。普通に停まったところで、接触しそうなほどのスピードは出ていないが。
 ブリッジに流れた元GP刑事の声に、キイは目を丸くする。その映像をランキムのブリッジで見ているらしいロッティは、質問される前に説明して手間を省く。
『ゼクロスの応援要請を聞いていた〈リグニオン〉のスタッフから頼まれて飛んできた。遅かったみたいだが、とりあえず任務は果たせそうだな。悪いが依頼料がかかっているんでね、大人しく連行されてもらおう』
 ランキムが重力波を放った。
『ああ、ひどい、ひどい~』
『〈リグニオン〉に帰還するのは当然だろう』
 わめくゼクロスに、ランキムが乾いた声で告げる。
『だいたい、補助ドライヴだけでどこまで行くつもりだ』
 重力波で捉えたゼクロスとともに、ASを使用してワープ。
「今はランキムが自由の身でAS使いかぁ……
 ブラックアウトして間もなくメインモニターに映し出された惑星オリヴンを眺め、キイは溜め息交じりにぼやいた。

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