DOWN

咎人たちは風と詠いて(6)

 ナユトは町の友人たちと、雑談に作戦の情報を交えながら、かすかに甘酸っぱい味のする、手作りのハーブティーを楽しんだ。
 今回はいつもより、少々タイムリミットまでが短い。十分もすると、ナユトはフレッセたちに目で挨拶をしてから、テントを出る。
 街の中央にあるプラットフォームまで、片道十分足らず。余裕で列車に戻れるはずだ。
ときどき町の住人と声を交わしながら、彼は早足でテントの間の道を抜けていく。
 プラットフォームが見えてきたとき、不意に、爆音が乾いた空気を震わせた。
 周囲の少年たちが一斉に振り返るのに混じり、ナユトも爆音の元を捜す。遠くテントの群の向こうに、赤い炎が上がっていた。町の端の、工場がある辺りだ。
 一体、何があったのか。たまに事故が起きることはあるが、今までにない動きを起こそうという時期だけに、ナユトはわずかの間、様子を見に行こうかどうか、迷った。
 だが、ここから現場に行って戻ってくると、間に合わない可能性が高い。それに、事故については担当者が処理するはずだ。
 そう結論付けると、彼は歩みを再開した。
 砂上列車に戻っている姿は、まだ少ない。常に列車に残っているリーダーと、いつも一番に帰還しているオーリスが、一両目の出入口で彼を迎えた。
「早かったな。首尾はどうだ?」
「無事、完了しましたよ」
 ドアの脇に立つシェザースに答え、壁際でうずくまっている金髪碧眼の少年に目を向ける。相手は、面倒臭そうに口を開いた。
「こんなことして何になるの? 本当に、この列車や町のシステムを騙せると思う?」
「昔は騙せたんだろ」
 いつものように暗い目で見上げてくる相手に、ナユトは肩をすくめて見せる。
「その点は心配するな」
 振り返らないまま、シェザースが低い声を出した。その声の調子と意外なことばとに、少年たちは不思議そうに目を向ける。大きな大人の背中に。
「オレは、昔政府の機関でプログラマーとして働いていたんだ……この、右手の紋章を隠してな。オレが二年前にこの列車のコンピュータに仕掛けをしたことも、バレていない。バレていたら、こうして生き残っていないだろう」
 初めて聞く事実に、二人の少年は驚き――そして、少なくともナユトは、内心少しだけ、自由をつかむという希望を持った。
 彼が列車に戻った時点で、すでにタイムリミットまで十分を切っている。間もなく、他の少年たちが次々と帰還し始めた。
 戻ってくる少年たちの間で話題になっていたのは、やはり、工場の事故のことだ。彼らが人づてに聞いた話では、住人の咎人のミスで機械が故障して火事になり、何人かが巻き込まれたらしい。
 しかし、現場を直接見た者はなく、彼らの話からは、確かなことはわからなかった。
 やがてタイムリミットが迫り、シティ内に散っていた子どもたちが次々と戻る。残り五分を切ったところで、ホナミが顔を見せた。
「ツキミはまだ戻っていないようですね。工場で事故があったみたいですけど……あの近くに行ったはずなので、ちょっと心配です」
「ああ。……そういえば、レモもまだ帰ってきてないようだな」
 心配そうな顔をする姉妹の姉に、ナユトもふと最年少の少年のことを思い出し、眉をひそめる。
「レモも、工場近くに届けに行ったはずだ。何か妙なことに巻き込まれた可能性もあるね」
 うずくまったままのオーリスが淡々と推測を口にする。
「何があったのか、問い合わせてみるか。答が来るまで時間がかかるかもしれないが」
 シェザースが苦い顔で機関車に向かう。
「残り六人。二分」
 オーリスがカウントし、肩をすくめる。
 一番プラットフォームの階段に近い車両に戻ってきた他の仲間たちは、すぐに別の車両に移動するが、ナユトとホナミはその場に残った。


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