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記念すべき日(3)
間もなく脳裏から消えたそれが一体何の意味を持つのか、祐輝は考え込んだ。
『おい、祐輝、大丈夫か?』
怪我でもしたのだろうかと思ったらしく、教授が少し心配そうに声をかけてきた。祐輝は軽く頭を振り、ことばを返す。
『ええ、大丈夫です。で、どうします?』
今の映像に何か意味があるかどうかわからないので、彼は気のせいだと思うことにし、本来の仕事に戻る。
教授は、考え込むように少しの間黙った。
『そうだな……まず、どれくらいの規模かどうか調べてほしいな。まだ時間はある、ゆっくりやろう』
『そうですね。自分も準備万端ですよ』
暑さで少しバテ気味だったのはあるが、それも海中に入った途端、吹き飛んでいた。体力は充分である。
祐輝は金色の床の上の泥を取り除き、その都度土煙がおさまるのを待ちながら、文字が彫られた長方形から離れていった。
手で泥を払って金の板を露出させながら移動する祐輝を、海底探査機が追う。時折、那美が通信機を使い、移動が直線になるように、ブレを指摘してくる。
慎重な進行で、十分で十メートル先に到達する、という状態である。単純な作業だが、船で待ち続けた時間に比べれば、充分やりがいのある時間だった。
そうして同じような作業を続けるうち、祐輝は、ついに金色の床の端に辿り着く。
土を払ってさらに端を露出させると、それが弧を描いていることがわかった。
『大体、四五メートルか。那美、円形だとして、どんな円か再現できるか?』
少し遠くで、那美の返事が聞こえた。彼女はパソコンを操作して、地図上に円を再現していることだろう。
その操作が終わると、黙っていた教授がことばを続ける。
『あの長方形が中心らしいな。一体何の意味があるのか……』
『宗教関係ですかね?』
『正体不明の遺跡がすべて宗教関係の遺物とは限らないさ。中心のあれは墓のようにも思えたが、それにしては、貧相なわりに場所をとるというか。何かの目印か』
教授と同じように、祐輝もまた、今までに学んできたさまざまな遺跡の知識を思い返す。どこかに、似たような遺跡はなかったか。
いくつか思い浮かべたところで、彼は意味がないことに気づいた。思い浮かんだ遺跡が、その存在意義の判明しているものでなければどうしようもない。
『那美、この辺りで何か変わったことはないか?』
少し遠い声で、教授が再び、那美に指示を下す。
それから、しばらくの沈黙が続いた。祐輝はただじっとしているのもつまらないので、円のふちをの泥を取り払っていた。
さらに数メートルを海水にさらしたところで、途切れていた通信が復活した。
『祐輝、わかった。その円は、目印だよ』
『何の目印です?』
興奮を隠したような声を疑問に感じながら、祐輝は促した。
そのことばに、教授は短く答える。
『隕石だよ』
『隕石?』
『隕石が、その円の中に集中して落ちているんだ』
一体どういうことなのか。祐輝は、すぐには信じられなかった。
だが、教授のことばは那美がデータの統計を出した結果だろう。ありえない統計結果が出ているなら、それは、ただの偶然とは思えなかった。
円が隕石を引き寄せているのなら、この遺跡の創造主たちはかなり高度な文明を持ち、そういった目的の装置を造り上げたということになる。祐輝は精霊や宗教的な魔力のようなものを真っ向から否定する考えはないが、この円を何かの魔方陣、と解釈することはできなかった。外部からは、装置としての構造は見て取れないが、円の地下に装置が埋もれているのかもしれない。
しかし、それはそれとして、問題は、なぜ隕石を引き寄せる装置を作ったのか、である。
それとも、隕石が落下する場所に円を作ったのか。祐輝には、そうとは思えなかった。遺跡という原因があって隕石落下という結果が起こるほうが自然に思える。
『何か、ここに隕石を落とさないといけない理由でもあるんでしょうか?』
大部分が土に埋もれた円を見渡しながら、彼は教授にそう問うてみた。
教授は一呼吸置いて、教え子の質問に応じる。
『居住区に落ちないため……とも思えるが、普段から隕石の多い地域に住んでいないとそれはないな。高度な文明を持っているのだとしたら、そういった隕石落下が多い地域を予想し、移住すればいいだけだ』
教授のことばを聞きながら、祐輝はじっと円の全体がある辺りに注目していた。円の外とは違って、岩が転がっていたりはしない。不自然に、綺麗に見えた。