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白い塔
今年の夏は、ずいぶん気温が高かった。セミがミンミンとうるさいくらいに鳴き、できるだけ日陰を選んでいるのに、ちょっと外を歩くだけで、汗が滴り落ちる。
「今日はいい日和だな。最適とも言える気温だ」
彼はどこからか温度計を取り出し、嬉しそうに笑った。
公園に入って少し歩けば、わたしたちの前に、目的の建物が現われる。
「オレは、二重の塔がいいな」
言って、彼が受け取ったのは、色の違う重なり。
わたしのほうは、別の種類のものを注文した。目の前で、純白のものが螺旋を描き、積み重なっていく。
「シンプルだなー」
「これじゃないと、食べた気がしないもの」
歩きながら彼が舐めているのは、ワッフルコーンに二段重ねた、ジェラード。彼は、ミントとチーズヨーグルトを選んだらしい。
わたしが選んだのは、ソフトクリームのバニラ。
「この形、芸術的だと思わない? まさにアイスっ! 夏! って気になる」
「そうか? この形って、うん――」
わたしが手を腰に当てた拍子に、偶然、肘が彼のみぞおちに入った。
「っ――てぇ……ああ!」
思わず身を屈めた拍子に、彼の手の上のアイスクリームの一番上、ミントアイスが滑り落ちた。さわやかな青緑の塊が土の上で、べちゃっと潰れる。
「もったいねえ……」
彼は涙目になって、落ちたアイスの無事な部分でもすくえないかと、弁当箱を取り出そうとする。
「そんなはしたないことやめなさい。アリにでもやったと思っておくの……まあ、悪かったよ。うちに来たら、自家製アイス食べさせてあげるからさ」
わたしは毎年夏になると、ほぼ常に、冷凍庫にアイスを作っておいている。わたしの好みはソフトクリームだけど、家ではさすがに作れない。冷凍庫にあるのは、ジェラードアイスだ。
彼の表情が、一瞬で笑顔に変わる。
「ほんとに? 色んなところのアイス食べてきたけど、やっぱりお前の手作りに勝る物はないよな」
「そりゃどうも」
彼と並んで家に向かって歩きながら、わたしは、頬が熱くなるのを感じていた。
※モノカキさんに30のお題「螺旋」回答