■ 郵便と電子メール
結局のところだな、ネット君。
コンピュータ化だ〜、電子化だ〜とで叫んでいてもだ。
なにがどう「結局のところ」なのかわかりませんが。
「コンピュータ化」「電子化」とはよく言われる言葉ですよね。
うむ、結局のところ、一部の例外を除いて、現実世界のシステムをそのままコンピュータ上に写し取ったものでしかない、というのが事実なのだよ。
ははぁ。
って、何の話ですか?
「コンピュータ化」「電子化」の話だ。コンピュータを使ったからといって、今の世の中に存在しないものがポンっと生み出されるわけではない、ということだな。
そうなんですか? でも、電子化って新しいビジネスモデルのイノベーションがデジタライズされたソリューションなんじゃないんですか?
あぁっ、もうムズムズするなぁ、そういう言葉。
素人騙すプレゼンテーションじゃないんだから。
オンデマンドなサプライチェーンマネジメントによるユビキタス・コンピューティングの発展がコーポレートガバナンスを…。
黙れ。
きゅぅ。
とまぁ、色々言われてはいるが、実際、現実世界のシステムをコンピュータ上で実現してる、これこそが「電子化」なわけだ。手法は目新しいかもしれないが、システムという点では従来と大して変わらない。
そうかなぁ。
確かに「新しいビジネスモデル」と呼ばれるものもあるが、実際は現実世界のシステムを模倣して作られた電子システム上で、電子化の特性を生かしたあらたな「ビジネスモデル」という形のことが多い。
電子化の特性って?
例えば、「即時性」、「双方向性」、「境界が存在しない」「システムの組み合わせ」などがあるな。
なるほど、ワールドワイドに影響するインタラクティブな…。
黙れ。
きゅきゅぅ。
あ〜もぅ、話が進まん。というか、前置きが長すぎたな。つまりだ、今回から説明するメールシステム、電子メールも現実の郵便のシステムを前提として作られているということを念頭に置いて聞きたまえ、という話だ。
そりゃメールというぐらいだから、郵便なんでしょ?
まぁ、そう言われれば確かにそうだが。だが、「電子」メールなので、なんか普通の郵便と違うことをやってるのかな〜、と思いがちだ。
ん〜、そう言われればそうかも。郵便よりも複雑そうというか。
確かに、電子化にともなう変更や、電子化特有の問題点は存在するが。
システムとしては「郵便」と対して変わらない。そこらへんを忘れないように。
はぁ。覚えておきます。
■ MTAとMUA
さて、電子メールというシステムを順番に説明しよう。メールシステムの一番の基本の図はこうだ。
[Figure78-01:メールシステム(基本)]
ユーザがいて、コンピュータがあって。
コンピュータの中は、ファイルシステム…ってことはファイルを保存するものがあって、メール転送プロセス?
メール転送プロセスついては先で話す。
この基本でのメール転送の仕組みはこうだ。
[Figure78-02:メールシステムの動作(基本)]
ははぁ、なんともシンプルですね。
そうだな。「手紙を書く人」が「郵便配達人」に「手紙」を渡し、「郵便配達人」が「手紙を受け取る人」に渡す。これだけだ。
「手紙を書く人」がユーザ、「郵便配達人」は くまですか? ▼ link
もちろんだ。
ですよね。
まぁ、「郵便配達人」は転送プロトコル、だな。で、「手紙を受け取る人」が宛先コンピュータ、となる。
なるほど。書いた手紙を持っていく、コレですね。
そうだ。簡単だろう? まさしく郵便そのものだろう?
郵便というか、なんというか、「メモのやりとり」レベルですね、これじゃ。
確かに。これでは「メモのやりとり」レベルなので問題がある。
送信側だが、このコンピュータは宛先と直接接続できなければならない上、常にメール転送プロセスが起動していなければならない。
「直接接続できなければならない」ってのはわかります。
でも、起動していなければならないってのは?
起動していないと、届かなかったことがわからなかったり、再送する場合に困るのだよ。
なので、メール転送プロセスを起動しているサーバにメールを預けて転送してもらうという形にする。
[Figure78-03:送信時の問題の解決]
つまり、「手紙を送る人」と「受け取る人」の間に「ポスト/郵便局」をはさむわけだな。
そうすることによって、「手紙を送る人」は手紙を「ポスト/郵便局」に渡せば後は届けてもらえる。
なるほど。メール転送サーバが「ポスト/郵便局」の役割なわけですね。
一方、受信側も常にネットワークに接続し、メール転送プロセスが起動していなければならない。そうでなければメールを受け取れない。ネット君、どうする?
ん〜〜〜、メールを預かっていてもらって、必要な時だけ取りに行けばいいですよね。
つまり、「ポスト」とか「私書箱」に届けてもらって……、お?
そうだ。また、「ポスト/郵便局」の出番、だろう?
[Figure78-04:受信時の問題の解決]
この送信・受信の両方を組み合わせると…。
[Figure78-05:メールシステム]
送信元・宛先、メール転送サーバという「ポスト/郵便局」。「ポスト/郵便局」にメールを渡して届けてもらい、「ポスト/郵便局」にあるメールを取りにいく……、博士、これって郵便ですよっ!!
だろう?
へへ〜、すごいというか。電子メールも郵便なんですねぇ、ホントに。
この「送信元」「宛先」で動かしているメール転送プロセスのことをMUA、メール転送サーバで動かしているプロセスをMTA、一時的に受け取りにくるまで預かる場所をメールボックスと呼ぶ。
えむゆーえー、えむてぃーえー。めーるぼっくす。
[Figure78-06:メールシステムでの用語]
MUAとMTAってどう違うんです? 両方ともメール転送プロセスなんでしょ?
MTAはメールを送信・受信し配送するためのソフトのことを指す。
一方のMUAはメールの送信・受信に加え、ユーザがメールを使うための機能を含めたソフトのことだ。
メールを使うための機能ってなんです?
つまり、メールを作成するためのエディタ、メールを見るためのビューワ、MTAへ送るため・MTAから受け取るためのメール転送プロセス、他にもあるが、これらがまとまった統合ソフトのことだな。OutlookやThunderbirdのようなメーラがこれに当てはまる。
あぁ、なるほど。普段僕らが使うソフトですね。
一方のMTAはサーバソフト、つまり「メールサーバソフト」もしくは使用するプロトコル名から「SMTPサーバソフト」「POPサーバソフト」と呼ばれる。
えすえむてーぴー? ぴーおーぴー?
それについては後で説明する。
そして、MUAは使用するMTAを指定する必要がある。OutlookExpressならこの画面だな。
[Figure78-07:使用するMTAの指定]
実際、メールのやりとりをするだけならMUAはいらない。
ただ、メールのやりとりだけでなく、作成や管理などを行うためにユーザ用のMUAがある、と考えればいい。
なるほど、ユーザが間単にメールを使うためにMUAがあるんですね。
■ 宛先の特定
さて、メール転送プロセスは宛先を特定してから、宛先のメール転送プロセスへメールを転送するわけだが。
この宛先の特定、というのはどうするのかね、ネット君?
宛先の特定? メールの宛先の特定と言えば、メールアドレスでしょう!!
確かに、メールアドレスで宛先を特定するわけだ。
メールアドレスはこうなってる。
- <アカウント> @ <宛先ドメイン名/ホスト名>
アカウントってユーザIDですよね。メールを受け取るユーザ。
で、アットマークがあって。で、「宛先ドメイン名/ホスト名」?
まぁ、簡単に言うと、ユーザのメールボックスのあるドメイン名またはホスト名、要は「メールボックスの場所」「メールサーバ名」だな。
ははぁ、メールを預かっておいてくれるサーバのことですね。
うむ。つまりメールアドレスとは、<宛先メールボックスの場所>にある<アカウント>宛を示す、ということだ。これによりメールの送信側は宛先を特定する、と。
なるほどです。
ではネット君、例えば「amino@3min.net」というメールアドレスがあったとする。これの意味は?
え? 今の説明から行くと、「3min.netにあるメールボックスのamino宛」ですよね?
うむ。確かにそうだ。だが、3min.netのゾーンにあるメールサーバは、「mail.3min.net」なのだ。だが、メールアドレスは「3min.net」。何かおかしくないかね?
う、うぅ?
3min.netにあるmail.3min.net? ホストを示すべきだから、「amino@mail.3min.net」?
ここで思い出すのは、DNSレコードの種類だ。何があったかね?
アドレス「A」、ゾーン「SOA」、ネームサーバ「NS」、逆引き「PTR」、別名「CNAME」……メール!! メールの「MX」レコード!!
そういうことだ。動作的にはこうなる。
[Figure78-08:メールサーバの特定]
と、このようにして<宛先ドメイン名/ホスト名>から実際のIPアドレスを特定するわけだ。
……、博士、なんで「@3min.net」なんですか? 「@mail.3min.net」にしておけば丸くおさまるじゃないですか。
最初からドメインの名前じゃなくて、メールサーバの名前にすればいいのに。
基本的にメールボックスは「ドメイン」にあるもの、と考えるのだよ。特定のホスト(メールサーバ)にあるもの、とは考えない。
う〜ん……。
メールボックスが「ドメイン」にある、と考えておけば。もしメールサーバが障害などで使えなくなった場合でも、違うメールサーバをMXで指定すればいい。だが、メールサーバをメールアドレスとするとしていた場合、どうなる?
そのメールサーバが故障したら、メールアドレスが変わる?
そういうことだ。メールアドレスがころころ変わるのはよろしくないだろう?
そうですね、確かに。は〜、上手く考えられているんですねぇ。
■ メールのプロトコル
さて、ネット君。さっきの図をもう一度見てもらおう。
[Figure78-05:メールシステム]
メールは3回転送されているな。
え? え〜っと。MUAからMTAへ。MTAからMTAへ。MTAからMUAへ。
3回ですね。
うむ。この3回だが、2種類の動作があることはわかるか?
説明の動詞から考えてみたまえ。
2種類の動作?「説明の動詞」?
「メールを渡す」「メールを届ける」「メールを取りにいく」ですよ?
「メールを渡す」と「メールを届ける」は、動きとしては一緒だ。
「MUAからMTAへメールを届ける(渡す)」、「MTAからMTAへメールを届ける」だな。
ん〜、そう言われればそうかも。ってことは2種類っていうのは、「届ける」と「取りに行く」ですか?
そうだ。つまりメールシステムで行われる動作は2種類あるということだ。
まず、「届ける」時に使われるプロトコルがSMTPだ。 ▼ link
しんぷるめーるとらんすふぁーぷろとこる。
あ、SMTPってさっきでてきましたよね。「SMTPサーバソフト」って。
そうだ。MTAのうち、「メールを届ける/受け取る」役割を担うのが「SMTPサーバソフト」になる。
そして「メールを取りにいく」というか「メールボックスからのメールの取り出し」時に使われるのが、これは2種類ある。
ふむふむ、また2種類ですか。
POPとIMAPだ。 ▼ link
ぽっぷ、あいまっぷ。
うむ。「MUAの『取り出し』要求に応じてメールを渡す」役割を担うのが「POP/IMAPサーバソフト」になる
MUAが「届いてるメールを下さい」って取りにいくと、「これだよ」って渡してくれるサーバ、って意味ですか?
そういうことだ。図で示すとこうなる。
[Figure78-09:SMTPとPOP/IMAP]
メール届ける時使うのが、SMTP。
メールボックスからの取り出し時使うのが、POP/IMAP。なるほど。
「届ける」と「取り出し」では動作が違うので、別々のプロトコルが使用される、ということだ。
う〜ん、「取り出し」はなんでさらに2種類あるんですか?
うむ、それはメールボックスに対する動作が違うのだ。
ははぁ。どういう風にですか?
それはこれから先説明していこう。
今回はこれぐらいで終わりにしよう。
はい。
次回からはまずSMTPを説明する。
了解です。 3分間ネットワーキングでした〜♪
- くま
-
何故、郵便配達人が「くま」なのか?
答えは参考リンクの本を買おう!! (宣伝宣伝〜)
- MUA
- [Mail User Agent]
- MTA
- [Mail Transfer Agent]
- メールボックス
-
[Mailbox]
そのまんまの「郵便箱」「ポスト」の意味。
- メーラ
-
[Mailer]
もしくはメールソフト[Mail Software]や、電子メールクライアントなどとも呼ばれる。
- SMTP
-
[Simple Mail Transfer Protocol]
RFC821で既定、現行はRFC5321。
- POP
-
[Post Office Protocol]
読みは「ぽっぷ」。現行はバージョン3(「POP3」)。
RFC1939で既定。
- IMAP
-
[Internet Messages Access Protocol]
読みは「あいまっぷ」。現行はバージョン4.1(「IMAP4rev1」)。
RFC3501で既定。
- ネット君の今日のポイント
-
- メールシステムは2種類のメール転送プロセスからなる。
- ユーザが使用するMUA。
- メールの送受信を行うサーバのMTA。
- メールは一時的にメールボックスに保存される。
- メールアドレスで宛先を特定する。
- ユーザアカウント@メールボックスの場所。
- メールシステムでは2種類のプロトコルが使われる。
- メールの送受信を担うSMTP。
- メールボックスからの取り出しに使うPOP/IMAP。
- メールシステムは2種類のメール転送プロセスからなる。